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2.漢方の診察法と治療法|漢方歳時記

2.漢方の診察法と治療法|漢方歳時記

2010年04月28日 (水) 12時26分配信 投稿日:10/04/28 12:26 icon_view 966view

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■「証」


漢方の治療では、前回述べたように「心身の病的状態」を判定することが重視されます。『 傷寒論 ( しょうかんろん ) 』太陽病篇に「 ( しょう ) に従って之を治す」とあるところから「 随証療法 ( ずいしょうりょうほう ) 」といわれます。それに対して「療法」といわれる現代医学は、原則としてまず病名を定め、その病名に基づいて治療法を選択します。中医学では「 弁証施治 ( べんしょうせち ) 」といい、やはり「証」を弁じた上で治療します。我が国の伝統的な漢方、中医学ともに「証」の概念が、治療の根本をなしています。

「証」とはなにか
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漢方では、病気の原因を、ウイルス、細菌、暑さや寒さなど気候の変化も含めて「病邪」としてとらえます。それに対して、人間の生命力を「正気」という概念 でとらえます。 つまり病気とは、「病邪」と「正気」が、体内あるいは体表で戦う姿です。主戦場が体内であれば必ず、自覚症状や他覚症状として現れます。これらの症候群の 変化や軽重といった現象から、体内における抗争状態、すなわち本質を「陰陽虚実論」、「陰陽五行説」、「 臓腑経絡 ( ぞうふけいらく ) 説」、「 気血水 ( きけつすい ) 理論」などの理論によって、推理、掌握することを、「証をつかむ」あるいは「弁証する」といいます。

「証」について『漢方用語大辞典』では、以下の3項目を挙げています。

(1) 症候の意味。
(2) 病人のあらわすいろいろの症状を、漢方独自の診断方法によって、総合観察して、 その病人に葛根湯で治る確証があれば、その病人には葛根湯の証があると診断する。
病名の代わりに、処方名の下に証の字をつけて診断名とする。
(3) 体内の病状が外に現れたもの。

奥田謙蔵は、「証とは疾病の証拠である。即ち身体内における病変を体外で立証し、その本体を推定して、薬方を決定する。という意味である」と述べています。

また藤平健は、「証とは、その病人について現在現れている自他覚的のすべての症状を、生体に現れる闘病反応の漢方的表現方式にしたがって、整理し、総括す ることによって得られる、その病人に対する漢方的診断であり、同時に治療の指示である」と定義し、さらに「"証とは漢方的診断である"と言い換えた方が、 医者にも一般大衆にもずっとわかりやすい」と『漢方臨床ノート』に記しています。

つまり「証」とは、現代医学の「病名」に相当しますが、診察時における「証」の決定は「診断」即ち「治療」と直結します。一度「葛根湯証」と診断されれ ば、処方される薬も葛根湯です。「病名」に基づき、次に処方を選択する現代医学との相違点です。この「証」について、どのように診察し、診断を下すのか、 今度はその方法を説明します。

■漢方の診察法


漢方の診察法は、 四診 ( ししん ) といわれ、 望診 ( ぼうしん ) 聞診 ( ぶんしん ) 問診 ( もんしん ) 切診 ( せっしん ) の4種類があります。略して「 望聞問切 ( ぼうぶんもんせつ ) 」といいます。『 難経 ( なんぎょう ) 』の61項 ( ) 、いわゆる六十一難に記述があります。

1 望診
「望んで之を知る。之を神という。望んで之を知る者、其の五色を望見し、以て其の病を知る」
病人を眼で診ること、観察することです。患者の栄養状態、骨格、皮膚の状態(顔色や皮膚の色、つや、枯燥など)、粘膜の色(瞼、口中、口唇、歯齦)、浮 腫、起居動作、大小便の色、形状、性質、量などを観察します。中でも舌の状態(舌苔、色、亀裂、形、乾湿など)を診察することを「 舌診 ( ぜっしん ) 」と呼び、重視します。

2 聞診
「聞いて之を知る。之を聖という。聞いて之を知る者、其の五音を聞き、以て其の病を別つ」
患者の音声、痰と音のある咳、 喘鳴 ( ぜんめい ) 、しゃっくり、げっぷ、胃内停水、腹中雷鳴などを聞知し、口臭、体臭、膿汁、 帯下 ( たいげ ) 、大小便などの状態、有無を診察します。

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3 問診
「問うて之を知る。之を工という。問うて之を知る者、其の五味の欲する所を問うて、以て其の病の起る所、在る所を知るなり」
現在の問診と同じです。患者の既往症、家族の病歴、現在悩んでいる病気の経過や、今までの治療法、主訴、日常の生活環境、及び精神的誘因などを問います。

4 切診
「脈を切して之を知る。之を巧という。脈を切して之を知る者、其の 寸口 ( すんこう ) を診て、其の虚実を視、以て其の病の何れの藏府に在るかを知るなり」
患者の身体に触れ、診察することです。皮膚の熱感、乾潤、弛張、マヒ、強直の有無、内蔵器官の位置、形状、背や四肢を触診します。腹診は、江戸時代に発展した我が国独自の診察法で、現在は、腹診と脈診が重視されます。

■漢方の治療法


漢方の体系は広く「鍼灸、按摩、気功(導引)、薬膳など」も含まれると述べました。『 黄帝内経 ( こうていだいきょう ) 素問 ( そもん ) 異法方宜論 ( いほうほうぎろん ) には「 砭石 ( へんせき ) (石針)は中国東方、毒薬(漢方薬)は西方、灸ぜつ(灸)は北方、九鍼(はり)は南方からやってきた。 導引按蹻 ( どういんあんきょう ) (気功・按摩)は中央で発達した」とあります。漢方薬は、前回説明しましたので、他の治療法を紹介します。

1 鍼灸
体表にある「ツボ( 経穴 ( けいけつ ) )」を鍼または灸で刺激し、その刺激によって気を動かし、経絡を伝播させ、内蔵及びその他の器官を調和させる方法です。

『黄帝内経・ 霊枢 ( れいすう ) 九鍼十二原 ( きゅうしんじゅうにげん ) 篇では、「古代九鍼」といい9種類の形、大きさ、長さの鍼と、使用法などが記されています。現在一般に用いられる鍼は「 毫鍼 ( ごうしん ) 」を指しています。太さにより0番、1番、2番と番号がつけられ、「寸6の3番」とは、長さ一寸六分(約5 cm)直径0.2 mmの鍼のことです。日本では 針管 ( しんかん ) という筒を使い、無痛で鍼を打つ事ができます。江戸初期に、 杉山和一 ( すぎやまわいち ) 検校が発明した方法といわれます。

人気を博した韓流ドラマ『チャングムの誓い』では、元医官のウンベクが蜂の針を、チャングムの治療のために使用する場面があります。これも鍼法の一種です。

灸には、団子大の ( もぐさ ) に 火をつけ、じっと耐えるイメージがあると思いますが、実際使われる灸は、米粒ほどの大きさの艾を、体表につけ熱刺激を与える「直接灸」で、一瞬チクッと感 じられる程度です。一方、薬草やショウガ、ニンニクの薄切り等の上に艾をのせて、燃焼させる方法を「間接灸」といいます。

2 按摩
「ツボ」や「 経絡 ( けいらく ) 」を手で揉んだり、押したりして気を動かし、身体を調える方法です。 按摩は、からだの中心から末端に向かって、経絡の走行に沿って施術します。一方、マッサージは、四肢の末端から中心に向かって、筋肉を主体に施術します。

3 気功
呼吸法を中心に、ゆったりとした運動法を加える事により、体内の気を ( めぐ ) らすことを目的とします。「気功」という言葉は、半世紀前から使われ始め、古くから呼称されているものではありません。

4 薬膳
治療・予防の料理として、精密な調理技術によって「医食同源」を具体化したものです。広義の薬膳には、食養・食療・薬膳の違いがあります。
    食養・・・食事療法による、病気の予防
    食療・・・食物自体の薬能を生かした、食物による治療法
    薬膳・・・食療に、漢方生薬を加味した方法

「薬膳」の用語は、『後漢書』列女伝にありますが、あくまで煎薬の配膳という意味です。現在のような用例は、1980年10月に「成都同仁堂滋補店」経営の同仁堂薬膳餐庁が、薬膳レストラン第一号店を開店して以来、定着したと考えられています。

街でみかける薬膳レストランでは、頭なら頭、胃腸なら胃腸に良いものをたくさん加える料理が多いようにみえます。患者の陰陽虚実をふまえて、漢方処方の助力となるよう調理する必要があります。『傷寒論』 桂枝湯 ( けいしとう ) 条にあるように「桂枝湯を服し終わって熱き薄粥をすすり、体を覆う処置をとって発汗を促す」ことも、薬膳のあり方の一つです。


<参考文献>
やさしい漢方入門、健友館、1995.
やさしい漢方ハンドブック、総合漢方研究会、2002.
長濱善夫:東洋医学概説、創元社、昭和63年.
傷寒雑病論、東洋学術出版社1990.
漢方用語大辞典、創医会学術部主編、燎原、1991.
奥田謙蔵:傷寒論講義、医道の日本社、pp. 1、昭和58年.
藤平健:漢方臨床ノート論考篇、創元社、pp. 14-25、昭和61年.
難経、医統正脈全書5、新文豊出版公司、pp. 3170-3175、1975.
和久田叔虎:腹証奇覧翼、近世漢方医学書集成83、名著出版、pp. 389、昭和57年.
素問・霊枢、日本経絡学会編、1992.
標点版古今圖書集成、陳文矩妻
根本幸夫:免疫・漢方・薬膳、pp. 14、2000.


著者:小松一

■コラム


新年度になり、横浜薬科大学(以下、本学)でも4月3日、入学式が挙行されました。本学は、「ドリームランド」と呼ばれた遊戯施設跡に建ち、キャンパス内 には、数十本もの桜の大木が植えられています。桜の開花時期になると、近隣住民の皆さんが桜の並木道を通り抜けられるよう、キャンパス開放を行っていま す。入学式会場となる体育館へは、毎年、大学正門から、満開の桜の下を通り抜けながら入場する事になります。



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桜は、排膿促進・解毒・解熱などの薬効があり、日本では古くから民間薬として、急性胃炎・魚やキノコによる中毒・蕁麻疹・水虫・できものなどに使用されています。漢方生薬としては、バラ科のヤマザクラ(Prunus jamasakura SIEBOLD)またはその近縁植物の周皮を除いた樹皮を「 桜皮 ( おうひ ) 」といい、 十味敗毒湯 ( じゅうみはいどくとう ) に配合されます。この処方は、アレルギー性皮膚炎や、蕁麻疹などの皮膚病に頻用されます。

桜皮は、中国では使用されず、『 本草綱目 ( ほんぞうこうもく ) 』や『中薬大辞典』には記載がありません。日本では、 華岡青洲 ( はなおかせいしゅう ) が、十味敗毒湯に 樸樕 ( ぼくそく ) の代わりに桜皮を入れたのが最初といわれています。十味敗毒湯について、 浅田宗伯 ( あさだそうはく ) は「化膿性の腫瘍など種々の腫れもの、初期の悪寒や高熱、疼痛を治す。柴胡、独活、桔梗、 川芎 ( せんきゅう ) 、甘草、 荊芥 ( けいがい ) 、防風、桜皮、茯苓、生姜」「華岡青洲が 荊防排毒散 ( けいぼうはいどくさん ) を取捨したもので、それより効力が優れている」と述べています。


<参考文献>
漢方210処方生薬解説、じほう、pp. 199、2001.
華岡青洲:瘍科方筌、近世漢方医学書集成29、名著出版、pp. 345、昭和55年.
浅田宗伯:勿誤薬室方函、近世漢方医学書集成95、名著出版、pp. 180-181、昭和57年.
浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣、近世漢方医学書集成96、名著出版、pp. 282、昭和57年.

著者:小松一



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