運営からのお知らせ

新着記事・レポート

カテゴリーを選択

薬物乱用・依存講座

<<前の記事へ

10.若年者向け薬物再乱用防止プログラム“OPEN”について

10.若年者向け薬物再乱用防止プログラム“OPEN”について

2010年11月29日 (月) 09時00分配信 投稿日:10/11/29 09:00 icon_view 317view

お気に入りに登録

お気に入りに登録

icon_view 317view

薬剤師のみなさん、こんにちは。
コラム「薬剤師のための薬物乱用・依存講座」にようこそ。

今回は、薬物依存の認知行動療法の中で、私が開発に携わっている若年者向け薬物再乱用防止プログラム"OPEN"についてご紹介させていただきます。


■1.なぜ若年者に特化したプログラムが必要か?



若年者向け薬物再乱用防止プログラム"OPEN"は、前回ご紹介しましたSMARRP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)1)を若年薬物乱用者向けにアレンジした認知行動療法プログラムです。若年者に特化したプログラムを開発することになった理由はいくつかありますが、その一つが薬物依存の重症度の違いです。OPENの対象者として想定しているのは薬物乱用歴の比較的短い若者です。つまり、前回の冒頭でお話ししたような大麻事件で逮捕された大学生のような場合です。ご存じの通り、所持や使用での薬物事犯の場合、初犯であれば執行猶予判決となる可能性が高くなります。したがって、裁判終了後は再び地域で生活をすることになります。刑事司法施設内で薬物依存にフォーカスをあてた離脱プログラムなどを受ける機会もなく、大学を退学になった上に、さまざまな引き金に曝されながら生きていくことが求められます。ある意味、野放し状態と言えるかもしれません。

地域にこうした若者の再チャレンジの場を一つでも増やしたいという想いがこのプログラムを開発することになった原点です。もちろん、既存のダルクへの入所を勧めるという方法もあるでしょう。しかし、全国42施設のダルク利用者408名を対象に実施した実態調査によれば2)、利用者の平均年齢は37.3歳(最年長は72歳)で、大学生に比べると年齢層がかなり高くなります。また、利用者の約6割は生活保護受給者で、さまざまな理由で家族からのサポートが受けられなくなっている方が多いことも事実です。さらに薬物依存の重症度も高い利用者が多い上に、幻覚や妄想といった中毒性精神病との合併例も少なくありません。

薬物乱用歴の比較的短い若者がこうした集団に入るとどのようなことを感じるでしょうか。「俺はあの人ほど壊れていない・・・だから、あと少しくらいなら使ってもよい」、「あの人たちは病気だけど、自分は違う・・・だからこのような施設にいたくない」などと考える若者も少なくないのではないでしょうか。いろいろな面で異なる集団に身を置くと、自分との「違い探し」をして、結果として自身の問題に向き合いにくくなる恐れがあります。少年鑑別所における少年向けに認知行動療法を開発した研究者は、若年者向けのプログラムが必要な理由として「自分の問題に対する過小視を助長する可能性を避けるため」と述べています3)。欧米では、「若者に効果的な治療とするために、大人用にデザインされたプログラムを修正する必要があった」、「若年薬物乱用者の場合、家族を積極的に巻き込んでいくことが有効」という報告もあります4,5)
 

■2.若年者向け薬物再乱用防止プログラム"OPEN"


OPENは、薬物乱用者の家族向けの教育プログラムを提供してきた実績のある東京都立中部総合精神保健福祉センター (以下、中部センターと表記)との共同研究により開発されました6)

現在、中部センターで毎週金曜日に実施されています。 東京都の事業として実施しているため、都内に在住・在勤・在学という制限はありますが、費用はかかりません。少人数のグループで、共通したワークブックを使って薬物の再乱用に至るきっかけを整理し、その対処スキルを身につけるというプログラムの基本方針はSMARRPと全く同じです。ワークブックもSMARRPをベースとしています。OPENという名前は、薬物を使わない新しい生活をスタートさせるという前向きな意味が込められています。これは、キャッチフレーズである「明日への扉を今開こう!」とも共通する点です。また、OPENでは「コミュニケーションスキル」を重視していますので、「オープンマインド」でプログラムに参加して欲しいという想いも込められています。デザイナーさんに素敵なロゴまで作っていただきました。

image1



■3.OPENの特徴



セッションの中では薬物依存に関する学習も行いますが、ワークブックの中では読み手を薬物依存と断定するような表現はなるべく避けるように工夫してあります。「自分はまだ依存症じゃないから・・・」と、自己の薬物問題への否認を避けるためです。また、雑誌を連想させるデザインで、写真やイラストをたくさん入れてあります。参加者を飽きさせないようにDVDを使って学習するセッションもあります。

プログラムへの参加はあくまで本人の意志に基づくものですので、どうすれば毎週来てもらえるのかがカギとなります。薬物に関する悩みや相談は、一般社会ではなかなか表に出しにくい話題です。そこで、OPENでは、スタッフとの信頼関係を重視し、ホスピタリティを持って参加者に接することを大切にしています。まずは「ここは何でも話せる場なんだ」、「ここは安全な場所なんだ」と感じていただくことが必要です。それから、参加者の考え方や行動が仮に専門的には好ましくなかったとしても、即座にそれを否定したり、説教したり、脅したりすることはしません。一旦は受け止めて、問題解決に向けて一緒に考える態度が求められます。そして、小さな変化に気がついてあげることも重要です。まさに「褒めて伸ばすタイプ」のコミュニケーションを心がけています。

コミュニケーションといえば、OPENが大切にしているもう一つの要素です。若年者は身近な仲間からの影響を強く受ける時期であることも踏まえ、ロールプレイを取り入れたセッションを行います。例えば、かつてのクスリ仲間と街でばったり遭遇した状況を設定し、スタッフが薬物を誘う役になり、危機的な状況を切り抜けるトレーニングを行います。また、薬物が使いたくなった時にその気持ちを誰かに聞いてもらうということも有効です。この場合は、スタッフが相談を受ける側になり、参加者が自分の気持ちを言葉にして伝える練習を行います。  

OPENは薬物問題を切り口としたサポートプログラムですが、自分の生活全般を見直すことも大切にしています。日頃のライフスタイルを振り返ってみたり、日々のスケジュールを立てるワークも行います。また、薬物に関連の深い健康テーマとして、性感染症や摂食障害といった話題にも触れます。

現在は、中部センターだけでの実施ですが、今後より多くの方にこのプログラムを利用していただき、若年薬物乱用者に対する地域の受け皿が広がっていくことを期待しています。

image2


<引用文献>
1) 小林桜児, 他:覚せい剤依存患者に対する外来再発予防プログラムの開発 Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMARPP).日本アルコール・薬物医学会雑誌.42(5)、507-521、2007.
2) 和田清,嶋根卓也:民間リハビリテーション施設の薬物依存者における違法ドラッグ・大麻種子等の乱用実態に関する研究.平成20年度厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)研究報告書.Pp 109-130.2009.
3) 松本俊彦, 他:少年鑑別所における薬物再乱用防止教育ツールの開発とその効果 若年者用自習ワークブック「SMARPP-Jr.」.日本アルコール・薬物医学会雑誌、44(3)、121-138、2009.
4) National institute on drug abuse: Principles of Drug Addiction Treatment: A Research Based Guide (Second Edition), 2009.
5) Gates S, McCambridge J, Smith LA, Foxcroft D: Interventions for prevention of drug use by young people delivered in non-school settings (Review),The Cochrane Library2009,Issue 1.2009.
6) 嶋根卓也、他:若年者向け薬物再乱用防止プログラムの開発に関する研究、平成21年度厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)研究報告書,157-166,2010.


著者:嶋根卓也


*この記事は2018年3月30日に更新しました。
*本記事の掲載内容、データ、著者の所属先や肩書などは掲載当時のものです。

Good5

コメントする

コメントする

コメント

回答:0件

記事・レポート(1387件)

show

2018.05.16 new 294.騒動の行方は。 【薬剤師業界のウラガワ】

2018.05.09 new 293.来場者が行動で示した潜在的関心 【薬剤師業界のウラガワ】

2018.05.03 99.サラリーマン薬剤師 【世塵・風塵】

2018.05.02 292.調剤薬局の大倒産時代が迫っている?! 【薬剤師業界のウラガワ】

2018.04.25 291.高まる『対面』の再検討機運 【薬剤師業界のウラガワ】

もっと見る

業界ニュース(20685件)

show

アンケート

show
ただいま、募集中のアンケートはありません。

もっと見る

セミナー情報(16件)

show

ブログ(5819件)

show

求人情報

show

よく見られている
新着記事・レポートランキング 集計期間:05月13日~05月20日

もっと見る

よく見られている
薬剤師のQ&Aランキング 集計期間:05月13日~05月20日

もっと見る