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薬物乱用・依存講座

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2.薬物乱用を理解するpart2

2.薬物乱用を理解するpart2

2009年06月19日 (金) 17時33分配信 投稿日:09/06/19 17:33 icon_view 235view

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薬剤師のみなさん、こんにちは。コラム「薬剤師のための薬物乱用・依存講座」にようこそ。
前回は、薬物乱用という言葉について解説をしました。今回のテーマは、「日本における薬物乱用の全体像を捉える」ことです。
 

■ 1.シンプルな質問



薬物乱用
というと、私たちが新聞やテレビなどで最近よく目にするのは、芸能人や有名大学の学生などの大麻事件でしょう。あのようなメディア報道が続くと、あたかも急速に私たちの周囲に大麻が広がってきているように感じるかも知れませんね。

こうした報道を通じて、薬物乱用に対する関心や警戒心が高まってきているからなのでしょうか、最近こういう質問を受けることがあります。
「日本では、薬物乱用者は何人いるのでしょうか?」、「日本では、大麻が増えているの?」

う~ん。。。極めてシンプルな質問なのですけど、私はいつも答えに困窮してしまいます。なぜなら、ご承知の通り麻薬や覚せい剤は、使用行為自体が法律で禁止されていますので、薬物乱用の「実態」を調べることは犯罪行為の掘り起こし作業にも近く、正確な全体像を掴むことは困難だからです。誰しも、自分の犯罪行為を他人に知られたくないですからね。

とはいえ、問題の大きさや特徴がわからないことには、それに対する対策を立てようがありません。そこで薬物犯罪者の統計や、私も関わっている実態調査などのデータを総合的に判断することで、全体像を掴んでいくという形をとりたいと思います。

それでは、それぞれのデータを順に見ていきましょう。


■ 2.薬物犯罪者の統計



犯罪白書 (法務総合研究所)では、薬物事犯の検挙人員をはじめ、取り締まりや処遇の状況が毎年公表されています。もちろん、薬物犯罪の統計だけを見ていても、検挙されていない薬物乱用者も潜在的にはいるはずですから、氷山の一角なのかも知れません。

しかし、薬物犯罪者のデータは長年蓄積されておりますから、それらを経年的に眺めることで、薬物乱用の流行(トレンド)を掴むことはできそうです。

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図1.覚せい剤取締法違反の検挙人員の推移

この図1は、薬物乱用に関わる各法律に違反した検挙者数です。
例えば、青線は、覚せい剤取締法違反によって検挙された人数で、この中には、使用罪や所持罪だけなく、密輸、密造、譲渡なども含まれます。覚せい剤乱用の歴史は古く、戦後約60年に渡り続いており、現在でも検挙者数が最も多いのは覚せい剤です。欧米では、ヘロインやコカインの乱用が薬物問題の中心となっていますが、日本での中心的な薬物は覚せい剤だと言ってよいでしょう。

この統計を元に、日本の覚せい剤乱用状況は、第1次~第3次の乱用期に区分されて説明されることがあります。これは検挙者数の増減だけでなく、乱用者層の特徴、入手経路や方法、乱用に関連した事件などを総合的に判断して区分されたものです。覚せい剤など薬物乱用の歴史について、もう少し詳しく勉強されたい方は、『依存性薬物と乱用・依存・中毒 ―時代の狭間を見つめて(和田清著/星和書店)』で解説されていますので、そちらをご参照ください。

現在は、1995年から始まった第3次覚せい剤乱用期にあり、若年層への乱用拡大、インターネットや携帯電話を用いた売買の広がり、注射器を用いた乱用から「あぶり」と呼ばれる加熱吸煙の乱用スタイルの広がりなどが特徴として挙げられます。検挙者数は、2001年以降、減少傾向にありますが、それでも年間1万人以上が検挙されています。なお、2007年は12,221人が検挙されています。


一方、赤線は、毒物劇物取締法による送致人員を表しており、トルエン、シンナーなどの有機溶剤乱用(いわゆるシンナー遊び)で送致された人数 を意味しています。1982年のピーク時には、36,796人の送致がなされていましたが、2007年では、2,044人までに劇的に減少しています。有機溶剤の流行は勢いがなくなってきたことを意味します。若者からは、「ビニール袋に入れて吸引する姿が格好悪い」という声も聞かれます。しかし、シンナーなどの有機溶剤は生活上、身近にあるものですから、入手可能性の高さを考えれば、今後も注意すべき薬物であることには変わりはありません。

~キーワード「送致された人数」~
有機溶剤の場合、送致の対象とならない警察補導人員(警察に検挙されたが、補導のみの対応)がいるため、犯罪白書では検挙という言葉を使っていないと考えられる。
「あれ?今話題の大麻は出てこないの?」と思われる方もいるかも知れませんね。実は、グラフの下の方にある緑線が大麻取締法の検挙人員です。これでは、ちょっと見にくいですよね・・・それでは、下の方だけを少し拡大してみましょう。

image
図2.麻薬取締法違反・あへん法違反・大麻取締法違反の検挙人員の推移

これで、だいぶ見やすくなりました。図2をご覧の通り、大麻取締法の検挙人員が、年々増加傾向にあることがわかります。

そこで改めて図1に戻ってみますと、大麻取締法の検挙人員(緑線)は、2006年に有機溶剤(赤線)を上回り、グラフが交差していることがわかります。2007年では2375人が大麻取締法で検挙されています。
それから、麻薬取締法の検挙人員(オレンジ線)も若干増加がみられますが、これは新たな薬物の麻薬指定 により、麻薬取締法で扱う薬物の幅が広がったことに関係していると思われます。
 
~キーワード「新たな薬物の麻薬指定」~
例えばMDMAは構造的には覚せい剤に近いですが、麻薬に指定されていますし、かつて脱法ドラッグと呼ばれていた薬物が新たに麻薬指定された例もたくさんあります。詳細は「犯罪白書」(法務総合研究所)をご覧ください。

■3.一般住民を対象とした実態調査



これまでご紹介してきた犯罪統計だけでは、日本全体の薬物乱用の状況は当然把握しきれません。そこで、国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存部 が中心となって実施している研究をご紹介したいと思います。これは全国から無作為に選ばれた15歳以上の一般住民5000名を対象に、1995年から隔年で実施している実態調査です。これは、戸別訪問留置法による自記式調査 という方法によるものです。

~キーワード「個別訪問留置法による自記式調査」~
調査員が調査用紙を持って無作為抽出された人の家を訪問し、調査の説明した上で同意をとり、各自で質問に回答していただき、後日それを回収するという調査方法のことです。

図3は、これまでに各薬物の生涯経験率を1995年から2007年まで並べたものです。生涯経験率というのは、生涯において一度でもその薬物を使ったことがあると回答した人が占める割合のことです。有機溶剤が日本で最も乱用経験者が多い薬物ということになり、続いて大麻、覚せい剤の順であることがグラフから読み取れますね。

犯罪統計では、有機溶剤での送致人員が激減しておりましたが、乱用経験者という観点から見ると、有機溶剤が最も多いということです。しかし、「乱用経験者」=「現在も常習的に使用している」わけではありませんから注意が必要です。

最新の2007年度調査では、有機溶剤の生涯経験率が2.26%、大麻0.96%、覚せい剤0.44%となっています。これを全国の人口に置き換えると、有機溶剤の乱用経験者が248万人(±45万人)、大麻105万人(±30万人)、覚せい剤48万人(±20万人)という推計が算出されます。

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図3. 15歳以上の一般住民における各薬物の生涯経験率(1995-2007)

いかがでしょう。想像していたより、薬物乱用の経験者は多いと感じませんか?しかし、こういった調査に答えたくない人はそもそも調査にご協力いただけませんし、自己申告による回答ですから、本来は乱用経験があるのに「無い」と答える人や、中には経験が無いのに「ある」と回答する人もいるかもしれません。

これは、いわゆるバイアスと呼ばれるデータの偏りのことで、疫学研究では避けて通れない障害物のようなものです。こうしたバイアスを少しでも小さくするために、対象者を全国から無作為に選んだり、匿名性を確保したり(正直に回答してもらうため)、対面式で回答してもらうのではなく、ご自分で記入してもらう自記式で行うといった工夫をしているわけです。こういったバイアスがあることを踏まえると、最低でもこれくらいの薬物乱用経験者いると解釈することが妥当だと考えられます。

■ 4.若者を対象とした実態調査



第3次覚せい剤乱用の特徴として若年層への乱用拡大が挙げられているように、薬物乱用問題を考える上で、若者の間での薬物乱用の広がりを把握することは極めて重要です。全国規模の実態調査としては、中学生を対象とする「薬物乱用に関する全国中学生意識・実態調査(実施:国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存部)」と、高校生を対象とする「高校生の喫煙、飲酒、薬物乱用の実態と生活習慣に関する全国調査(実施:兵庫教育大学教育・社会調査研究センター )」があります。

図4は、全国の中学生における各薬物の生涯経験率を1996年から2006年まで並べたものです。有機溶剤は、年々減少傾向にありますが、依然として最も多い乱用薬物です。
これに対し、大麻や覚せい剤については大きな減少はみられず、0.5%程度を横這いで推移している状態が続いています。いずれかの薬物乱用経験率となれば1.2~1.8%ですので、平均すると100人に1人以上の割合で、何らかの薬物を乱用した経験を持っていることになりますから、全国どの中学校であっても、こうした事例が出てきても不思議ではない現状と言えます。

相次ぐマスコミの薬物報道を目の当たりにすると、あたかも急激に若者の間に薬物乱用が広がったように感じるかもしれませんが、若者の薬物乱用は、少なくともこの調査が開始された1996年から全国的に存在し続けている問題と考える方が妥当でしょう。

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図4.全国中学生における各薬物の生涯経験率

一方、全国調査ではありませんが、表1に示したように、定時制高校生における生涯経験率が非常に高いという報告もあり、大麻が有機溶剤と同様に最も乱用される薬物として挙げられています。このように薬物乱用の状況は、地域や学校種によっても大きく異なることも事実です。とはいえ、欧米の青少年における乱用状況と比べると、日本の若者における薬物乱用の生涯経験率は、極めて低い状況にあることがわかります。

例えば、米国のgrade12(高校3年生に相当)では、半数以上の高校生が何らかの薬物乱用を経験しています。こうした乱用状況の違いは、出回る薬物の量そのものが欧米に比べて少ないことや、学校での薬物乱用防止教育が世界的に見ても優れており、早い段階から薬物乱用防止に対する意識が育まれていることが影響しているのかも知れません。

一方、欧米での薬物乱用状況の内訳をみてみますと、その大部分が大麻で占められていることがわかります。有機溶剤が下火になった一方で、若者の大麻乱用が問題となっている日本の現状は、欧米化の一つと捉えることができるかもしれません。

著者:嶋根卓也


*この記事は2018年3月30日に更新しました。
*本記事の掲載内容、データ、著者の所属先や肩書などは掲載当時のものです。

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