運営からのお知らせ

新着記事・レポート

カテゴリーを選択

薬物乱用・依存講座

<<前の記事へ

次の記事へ>>

3.薬物乱用を理解するpart3

3.薬物乱用を理解するpart3

2009年08月03日 (月) 15時42分配信 投稿日:09/08/03 15:42 icon_view 228view

お気に入りに登録

お気に入りに登録

icon_view 228view

薬剤師のみなさん、こんにちは。コラム「薬剤師のための薬物乱用・依存講座」にようこそ。
前回は、薬物乱用の実態を把握することは、なかなか難しく、犯罪統計や疫学調査などを総合しながら、全体像を捉えていく必要があることを解説しました。

薬物乱用は「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチフレーズ、よく耳にしますよね?「ダメ。ゼッタイ。」というメッセージはストレートでインパクトがあります。しかし、「なんで、ダメなの?」という問いに答えるには、薬物乱用の先にはどのような問題が待ち構えているのかについて理解する必要があります。

そこで、今回は、薬物乱用の先にある薬物依存や薬物中毒についてお話をしたいと思います。
 

■1.人は、なぜ薬物を乱用するのか?



人は、なぜ薬物を乱用するのでしょうか?

乱用を開始して間もない頃、多くの人は、薬物に何らかの良い効果を感じ、それらをコントロールしながら使えると信じています。例えば、中枢神経を興奮させる覚せい剤類を使えば、巨大な力を手にいれたような気持ちになり、自信に満ちあふれ、活動性が高まったように感じます。また、ヘロインのような麻酔作用のある麻薬を使えば、深くリラックスした気持ちになり、満足感が溢れてくるような多幸感を得ることができます。
その他、不安やストレスを軽減させる目的で薬物を使う人もいるでしょうし、身体のパフォーマンスを上げようとして薬物を使う人もいるでしょう。

このように、人々が薬物を使うことで何らかの良い効果を感じるのであれば、薬物乱用の問題はどこにあるのでしょうか?


■2.薬物依存とは



薬物乱用の最大の問題点は、乱用の先に待ち構えている薬物依存にあります。依存性のある薬物を使い続けていくうちに依存が形成され、薬物依存の状態になります。
つまり、薬物乱用という「行為」を繰り返すことによって生じる「状態」が薬物依存ということです。

image1
図1.時間的関係

薬物依存とは、薬物乱用を止めたくても、自分の意志ではやめることができない状態を指します。主たる症状としては、薬物を手に入れて使いたいという強迫的な感情(渇望感)に苦しめられます。そして、薬物を手に入れるために探し回る行動(薬物探索行動)がみられるようになります。
本人にとっては、勉強や、様々な社会活動よりも、1回の薬物を手に入れて使うことの方が重要になり、薬物を手に入れるためには、親の財布からお金を盗むようになったり、平気で嘘をつくようになったり、返すあてもないのに友達から借金をしたりするようになります。

しかし、こうした一連の行動は、その人が生まれもった気質や性格によるものではなく、薬物依存という障害が引き起こしている行動と捉える視点が必要です。

このように、薬物依存になると、自身の身体的・精神的な健康を害するだけでなく、家族や仲間とのトラブル、学業や仕事上のトラブル、借金などの経済面でのトラブルなど、生活環境でも様々な問題が発生します。
そして、自分自身や身の回りに、様々な不都合や不利益が生じているにも関わらず、自らの意思では薬物乱用をやめることができない状態になります。

薬物依存は国際的にも認められている精神障害の一つです。薬物依存は、身体依存(禁断症状などの体の依存)と精神依存(心、あるいは脳の依存)に分けて考えられることが多いですが、薬物の中には、身体依存がほとんどみられない物質(例えば、覚せい剤)もある一方で、精神依存については、どの薬物も程度の差はあれ、共通してみられます。
このため、薬物依存の本態は、精神依存と考えられています。


■3.クスリにハマったサルの実験



それでは、ここで精神依存を理解するための実験をご紹介しましょう。

これは、柳田ら によって開発された薬物自己投与・比率累進試験法と呼ばれる実験です。
下の写真は、ぬいぐるみのサルですが、生きているサルをイメージしてみてください。
そのサルには、カニューレがつけられており、レバーを押すことで、血管内に薬物が注入される装置になっています。レバーを押すことにより、快感が得られることを学習したサルは、レバーを繰り返し押すようになります。

そして、次の段階として、薬物を得るために押すレバーの回数を、2回、4回、8回、16回、32回・・・と累進的に増やしていきます。
すると、レバー押しの回数が増えるとともに、レバー押しの頻度は低下していきます。やがて、サルは薬物摂取を諦めたと判定されます。この最後の自己投与がみられたときのレバー押し回数(最終比率)を強化効果の指標として、各薬物を比較します。

image2
図2.サルのぬいぐるみ
写真提供:廣中直行(独立行政法人科学技術振興機構 ERATO 下條潜在脳機能プロジェクト 嗜癖行動研究グループ)

表1は、各薬物の結果です。コカインとモルヒネ(身体依存が形成されている場合)は、1万回を超える最も高い最終比率が観察されています。一方、最も低い最終比率は、ニコチンでした。

このようにレバー押し行動の発現頻度が増加する場合、その薬物は強化効果を有すると言われます。
そして、精神依存性を有する薬物のほとんどが自己投薬実験において強化効果を示すことから、精神依存性と強化効果との間には密接な関連があると考えられています。1回の薬物欲しさにレバーを1万回以上も押し続けているサルを頭に思い浮かべてみてください。

image3
表1.比率累進法による精神依存性の強さ
出典:柳田知司:1.薬物依存-最近の傾向.A.基礎的立場.現代精神医学大系年間版89-B.中山書店,p22-39,1989.


■4. 報酬系神経回路とドーパミン



では、なぜ薬物を使い続けると依存を引き起こすのでしょうか?それは、脳内の報酬系神経回路が深く関与していると考えられています。
報酬系神経回路は、中脳の腹側被蓋野 (A10神経) から側坐核を通り、前頭前野に投射する神経伝達系である。その神経伝達物資としては、ドーパミンが中心的な役割を果たしていると考えられる。この神経回路が活性化されることにより、快感が引き起こされます。

例えば、覚せい剤はドーパミンに類似した化学構造を有しており、ドーパミントランスポーター(過剰に分泌したドーパミンを再利用する取り込み口)に結合し、ドーパミン濃度を高めるだけなく、ドーパミンの分泌を促進させることで、脳内のドーパミンが過剰になってしまうと考えられています。

image4
図3.ヒトの脳の図


■5.薬物中毒とは



中毒には、急性中毒症状と慢性中毒症状の2種類があります。

急性中毒症状は、いわゆるオーバードーズのことで、薬物が急激に大量に体内に入ることで起きる様々な症状(呼吸機能や心拍機能の停止など)を指します。急性アルコール中毒を想像してください。
一方、慢性中毒症状は、薬物依存の状態の人がさらに薬物乱用を繰り返すことによって発現する精神病症状を指します。
具体的には、幻覚(例えば、本来聞こえるはずのない正体不明の声を聞くようになるといった幻聴など)や被害妄想(例えば、ヤクザや警察に追われているのではないかといった追跡妄想など)といった症状がこれに当てはまります。
これらの精神病症状が一度発現すると、少量の薬物やアルコール・ストレス・寝不足などをきっかけに再び同様の症状が発現するフラッシュバック(再燃現象)がみられることもあります。

これらの精神病症状は、精神科等で適切な治療を受けることで、改善するケースが多いとされておりますが、これらの精神病症状が消失したからといって、ベースとなっている薬物依存までが改善されたわけではないことに注意してください。

image5
図4.薬物乱用・薬物依存・薬物中毒の関係図


残念ながら、薬物依存そのものを完治させる薬は未だ開発されておらず、一度薬物依存になってしまうと、薬物に対する渇望感と一生付き合っていくことになります。そういう意味では、糖尿病などの慢性疾患と似ている部分があります。

薬物乱用者が、精神病院の入退院や薬物犯罪を繰り返してしまう背景には、この薬物依存が少なからず関与していると考えられます。とはいえ、薬物依存と向き合いながら、立派に社会復帰されている方もいらっしゃることは事実です。しかし、彼らの社会復帰までのストーリーを伺うと、その道のりはけっして楽なものではなく、長い時間と多くの苦労を伴います。

このあたりの薬物依存からの回復については、また別のコラムでお伝えできればと思います。


Yanagita,T.:An experiment frame-work for evaluation of dependence liability of various types of drug in monkey.Bull Narc25:57-64,1973.
若狭芳男、他:薬物自己投与実験による強化効果および中枢作用の検索.日薬理誌.126,5-9,2005.
加藤信、他:毒性試験講座8薬物依存,行動毒性.地人書館,p74-84,1990.

著者:嶋根卓也


*この記事は2018年3月30日に更新しました。
*本記事の掲載内容、データ、著者の所属先や肩書などは掲載当時のものです。

Good7

コメントする

コメントする

コメント

回答:0件

記事・レポート(1387件)

show

2018.05.16 new 294.騒動の行方は。 【薬剤師業界のウラガワ】

2018.05.09 new 293.来場者が行動で示した潜在的関心 【薬剤師業界のウラガワ】

2018.05.03 99.サラリーマン薬剤師 【世塵・風塵】

2018.05.02 292.調剤薬局の大倒産時代が迫っている?! 【薬剤師業界のウラガワ】

2018.04.25 291.高まる『対面』の再検討機運 【薬剤師業界のウラガワ】

もっと見る

業界ニュース(20685件)

show

アンケート

show
ただいま、募集中のアンケートはありません。

もっと見る

セミナー情報(16件)

show

ブログ(5819件)

show

求人情報

show

よく見られている
新着記事・レポートランキング 集計期間:05月14日~05月21日

もっと見る

よく見られている
薬剤師のQ&Aランキング 集計期間:05月14日~05月21日

もっと見る