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4.薬物乱用が引き起こす様々な問題

4.薬物乱用が引き起こす様々な問題

2009年09月10日 (木) 07時00分配信 投稿日:09/09/10 07:00 icon_view 223view

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薬剤師のみなさん、こんにちは。コラム「薬剤師のための薬物乱用・依存講座」にようこそ。

前回は、薬物乱用を繰り返した先に待ち構えている薬物依存や薬物中毒について解説いたしました。薬物乱用は、本人の健康を損ねるだけなく、その人の生活全体に様々な不都合や不利益をもたらします。さらには、本人だけでなく、周囲の人を巻き込むことが特徴です。
今回は、薬物乱用が引き起こす様々な社会的な問題について整理したいと思います。
 

■1.生活面で起きる問題



生活リズムの乱れは、薬物乱用者の多くにみられる変化です。睡眠が不規則になり、明け方近くまで起きて、日中は寝ているようないわゆる昼夜逆転がみられるようになります。食生活にも乱れが生じ、欠食や暴食(いわゆるドカ食い)がみられる場合もあります。
下表は、中学生を対象に実施した薬物乱用の実態調査の一部です。
image1

調査の性質上、因果関係を証明するほどの証拠能力はありませんが、有機溶剤(シンナーなど)を乱用した経験のある中学生は、経験のない中学生に比べ、起床・就寝のリズムが乱れており、朝食の欠食が多く、薬物乱用と生活リズムとの関連はデータ上でも示されています。

■2.経済的な問題(個人、社会)



経済的な問題も多くの薬物乱用者にみられる問題です。薬物依存の状態になった人は、どうにかして薬物を手にいれようとする薬物探索行動をとるようになります。当然のことながら、薬物を使い続けるためには、お金が必要です。
初期の段階では、親に金銭を要求したり、親の財布からお金を盗んだり、友人や知人から嘘をついて(薬物を買うためとは言わずに)お金を借りるといった行動をとるかも知れません。
しかし、このような身近な人からの調達が難しくなると、返すあてもないのにサラ金から借金をしたり、場合によっては恐喝事件や窃盗事件を起こしたりと、薬物を手に入れるための行動は次第にエスカレートしていきます。同時に、仕事上でミスを起こすようになり、無断欠勤がみられるようになり、場合によっては失業してしまうこともあるでしょう。

こうした身の回りに起きる様々な不都合は、本人のストレスをさらに増加させ、そのストレスを回避するために、さらに薬物を使うという悪循環が生まれます。

薬物乱用による経済的な問題は、本人や家族にとどまりません。我が国の薬物乱用・依存による社会経済的損失は、年間約2000億円と推計されています 。直接費用は、このうち1328億円を占めており、その56%が「司法における費用」です。つまり刑務所等の矯正施設に多額の費用が使われていることになります。薬物事犯者の再犯率が極めて高いことも影響していると考えられます。

例えば、薬物犯罪(このデータでは覚せい剤取締法違反および麻薬取締法違反と定義)で刑務所に入所した再入受刑者 の約70%は、前回の入所も薬物犯罪であったというデータがあります(図1) 。
薬物事犯者の再犯率の高さは、前述の薬物依存との結びつきが深いと考えられます。
法律で禁じられている違法薬物の使用や所持は、もちろん犯罪ですし、取り締まりの対象であることには異論はありませんが、薬物乱用者を刑務所に収容するだけで、すべての問題が解決するわけではないと思います。

強制施設など薬物が入手できない環境で薬物乱用を繰り返さないのは当たり前の話です。重要なのは、薬物が使える環境下、つまり地域社会において薬物を再乱用させないための取り組みに重点を置くべきだと思います。
image2
図1. 薬物事犯の再入率(出典:丸山泰弘、他:日本の薬物問題の現状、日本版ドラッグ・コート-処罰から治療へ-,日本評論社,18-43,2007.)
注)1.矯正統計年報(「再入受刑者の前刑罪名別再入刑罪名」)による。
2.ここでいう「薬物違反」とは、「覚せい剤取締法違反」および「麻薬取締法違反」である。

■3.薬物依存は周囲を巻き込む病気



薬物依存は「家族の病」とも言われています。薬物依存は本人のみならず、周囲の人たち、特に家族を巻き込んでいきます。

下の表2は、ダルクという薬物依存のリハビリテーション施設が主催する家族のための会(家族会)に参加した人たちを対象とした調査結果です。本人にみられる代表的な行動変化を家族の視点で捉えたものです。右側には、その行動を経験した家族の割合が示されています。
image3
表2.家族からみた薬物依存症者の行動

「感情の起伏が激しく、人が変わったようになった(93%)」、「意味不明な話をしたり行動がまとまらないことがあった(78%)」、「薬物を使って大声を出したり暴れたりした(68%)」、「薬物を使って暴力を振るうことがあった(61%)」など、薬物乱用による影響で本人の言動が変化し、家族がそれに追い詰められている姿が読み取れます。
本人の薬物依存症の進行に伴い、本人の周りにいる家族も変化がみられるようになると考えられています。

初期段階では、多くの家族は、本人の薬物問題に向き合うことを避けようとします。「そのうち本人が気づき、やめてくれるはずだ」とわが子のことを信じきっていたり、「自分の子供がそんな違法なことをしているとは認めたくない」と考えたりする家族もいるかもしれません。
本人の薬物乱用がさらに繰り返され、言動に変化がみられるようになると、今度はどうにかして薬物乱用をやめさせようと、必死になります。家族は、子供の前で慌てふためいたり、子供を怒鳴りつけたりするかも知れません。場合によっては、本人が薬物を使うために作った借金の肩代わりを家族がすることがあります。
もちろん、これは本人のためを思って、これを機会に立ち直って欲しいという願いがこめられていることです。表面的には「お母さんありがとね」なんて言葉が出てくるかもしれませんが、薬物依存という病気に支配されている本人の脳内では「これで、また借金ができるぜ」、「またクスリが手に入る」という思考回路が働きますので、再び薬物を手に入れる行動をとるようになります。

こういったやり取りを繰り返していく中で、家族は疲れ果て、また裏切られたという気持ちが強くなってきます。薬物乱用を繰り返してしまうわが子に「怒り」の感情が生まれることや、子供の薬物問題が心配で、夜も眠れず体調崩してしまったという家族もいるでしょう。このように本人の薬物問題は、周囲の家族を巻き込み、家族の健康も損ねることにつながります。



嶋根卓也,三砂ちづる:埼玉県下中学生における有機溶剤乱用に関する研究.日本公衆衛生誌.51(2):997-1007,2004.


池上 直己、山内慶太、湯尾高根:薬物乱用・依存によるマクロ的社会経済的損失に関する研究.平成14年度厚生労働科学研究費補助金(医薬安全総合研究事業)分担報告書,189-200,2003.
丸山泰弘(分担執筆)、他:日本の薬物問題の現状、日本版ドラッグ・コート-処罰から治療へ-,日本評論社,18-43,2007.
菊池安希子、和田清:物質依存症の当事者家族への対応-茨城ダルク家族会の活動を中心に-,精神科治療学,19(12);1419-1426,2004

著者:嶋根卓也


*この記事は2018年3月30日に更新しました。
*本記事の掲載内容、データ、著者の所属先や肩書などは掲載当時のものです。

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