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9.引き金理論で考える薬物依存の援助

9.引き金理論で考える薬物依存の援助

2010年11月01日 (月) 09時00分配信 投稿日:10/11/01 09:00 icon_view 302view

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薬剤師のみなさん、こんにちは。
コラム「薬剤師のための薬物乱用・依存講座」にようこそ。


■1.退学処分で問題解決か?



薬物依存者の過去を振り返ってみると、10代~20代前半に薬物乱用を開始しているケースは少なくありません。有名大学の大学生が大麻の所持・栽培等で逮捕されるニュースが世間を騒がしたことは記憶に新しいと思われます。事件発生を受けて、大学は謝罪会見を開き、事件を起こした学生は退学処分に、大学としては再発防止策を講じるといった説明がありました。この場合の再発防止とは、大学で再び同じ事件が起きないために健康教育をしたり、構内に防犯カメラの設置を検討したりといった防止策のことで、事件を起こした本人に対する再発防止策ではないようです。我々、薬物依存の予防・治療に携わる立場からすれば、退学処分といった刑罰的な対応だけでは本人の薬物問題の本質的な解決にはつながりにくいと感じています。薬物問題の本質的な解決のためには、やはり薬物依存にフォーカスをあてた援助が必要です。
 

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■2.引き金と薬物乱用との関係



では、具体的にはどのような援助が求められるのでしょうか。援助の第一歩は、薬物乱用をなぜ繰り返してしまうのか、まずは薬物依存のメカニズムについて理解するところから始まります。「引き金理論」は、薬物依存のメカニズムを理解する上で役に立つ考え方です。薬物依存とは、本人がやめたいと思っていても、薬物乱用をやめることができない自己コントロールを喪失した状態であることは以前も説明しましたが、さまざまな「引き金」をきっかけとして乱用を繰り返す悪循環を繰り返しているようです。では、「引き金」とは何でしょうか。

禁煙中の人がたまたま喫煙所の前を通りかかった際に、タバコを吸っている友人に出くわしたとしましょう。「お~い。○○、どこ行くの?え?禁煙したの?まぁまぁ、堅いこと言わないで一緒に一服しようぜっ」などと話しかけられるかもしれません。頭の中では「ようやくここまで禁煙したんだ。こんな誘惑には負けないぞ!」と禁煙に立ち向かう自分と、「うぅ・・・やっぱり吸いたい。でも一本くらいなら・・・だって明日からやめればいいんだから・・・」と迷う自分がバトルしています。さらに、目の前にはタバコとライターを持っている友達がいて、懐かしい煙の香りまで立ちこめています。このような状況であなたは友達からの誘いを断ることができますか?

「引き金」とは、薬物を使いたいという気持ち(専門的には渇望感と呼びます)を膨らませるきっかけとなる「場所・人・状況・感情」などを表す言葉です。この例で言えば、以前タバコを吸う場所だった喫煙所、一緒にタバコを吸っていた仲間、タバコとライターがありすぐに吸える状況であること、漂ってくるタバコの香り、友人からの誘い文句などが目や耳や鼻から同時に入ってきています。このような外部からの刺激を「外的引き金」と呼びます。このような引き金をきっかけとして、「一回くらいなら・・・」とか「あいつも吸っているんだし・・・」などと自分に都合のよい理由を見つけ出して再び使ってしまいます。一方、「内的引き金」というものもあります。簡単に言えばストレスのことです。怒り、悲しみ、寂しさ、生きづらさ、不安、緊張など・・・さまざまな感情・気持ちがストレスになります。これらのストレスも薬物を使いたいという気持ちを高めます。

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タバコを長期間吸い続けている人はニコチン依存になっている可能性が高いと考えられます。ニコチンも依存性物質という面では、麻薬・覚せい剤と同じです。タバコ・アルコールに比べて精神依存性がより強い麻薬・覚せい剤であれば、引き金に刺激されて、より強烈な渇望感に襲われ得ることは容易に想像できるでしょう。

■3.認知行動療法による薬物依存の援助



薬物依存からの回復の第一歩は、人それぞれ異なる引き金を特定することです。まずは自分自身を知るということです。自分の引き金が特定できたら、その引き金を避けるためにはどうしたらよいか、万が一引き金に出会ってしまった場合の対処方法などを身につけていきます。近年では、この引き金理論をベースとする認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)によるサポートプログラムが一部の精神科医療施設1,2)、精神保健福祉センター3)、少年鑑別所4)等で試行されています。

SMARRP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)は、米国のコカイン乱用者向けプログラムとして実績のあるMatrix Model5)をもとに、わが国の覚せい剤乱用者向けにアレンジを加えられたサポートプログラムです。神奈川県立せりがや病院の精神科医らを中心に開発された経緯があります。

これらのプログラムの特徴は、共通したワークブック(教材)を使うという点でしょう。薬物依存に対する地域の受け皿が圧倒的に不足している現状、援助者にとって敷居の低いプログラムにデザインされています。たとえどんなに優れた治療プログラムであっても、○○大学の○○先生でなければ提供できないよう敷居の高いプログラムでは、地域への定着や広がりは期待できません。薬物依存臨床にそれほど詳しくない援助者でもワークブックを参加者と一緒に読み合わせすることで、ある一定の効果を期待できます。また、プログラムの参加者も一方的に教育を受けるのではなく、自分のこれまでの生活を振り返って、薬物の再乱用につながりそうな引き金を振り返り、時には発表してもらいます。今後、このSMARRPのようなプログラムが提供できる機関が地域に広がっていくことが期待されます。


<引用文献>
1)小林桜児, 他:覚せい剤依存患者に対する外来再発予防プログラムの開発 Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program(SMARPP).日本アルコール・薬物医学会雑誌.42(5)、507-521、2007.
2)松本俊彦、他:薬物依存者の社会復帰のために精神保健機関は何をすべきか?.日本アルコール・薬物医学会雑誌2008; 43(3): 172-187
3)宮崎洋一, 他:精神保健福祉センターにおける認知行動療法の展開 TAMA center for mental health and welfare Relapse Prevention Program(TAMARPP)、日本アルコール・薬物医学会雑誌45(2);p119-127,2010.
4)松本俊彦, 他:少年鑑別所における薬物再乱用防止教育ツールの開発とその効果 若年者用自習ワークブック「SMARPP-Jr.」.日本アルコール・薬物医学会雑誌、44(3)、121-138、2009.
5)Obert, J. L., et al:The Matrix Model of Outpatient Stimulant Abuse Treatment: History and Description. Journal of Psychoactive Drugs 32: 157-164, 2000.



著者:嶋根卓也


*この記事は2018年3月30日に更新しました。
*本記事の掲載内容、データ、著者の所属先や肩書などは掲載当時のものです。

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