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6.薬剤師にできること/患者の選択を肩代わりする

6.薬剤師にできること/患者の選択を肩代わりする

2013年09月19日 (木) 09時00分配信 投稿日:13/09/19 09:00 icon_view 391view

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■目次

1.はじめに
2.『選択の科学』より
3.私たち、薬剤師ができることを考える
4.まとめ


■1.はじめに

みなさんは『選択の科学』(著者:シーナ・アイエンガー)という本をお読みになったことはありますか?本の内容は、非常に科学的で、選択をすることの奥深さ、難しさについて380ページにわたって書かれています。私はこの本を読み、「人生をより良くする(QOL向上させる)ために、私たち薬剤師ができることは何なのか」を深く考えさせられました。今回は、この本の一部を引用しつつ、私からの提案を述べたいと思います。


■2.『選択の科学』より

私が非常に考えさせられたのは「第7講 選択の代償」の部分です。
この部分は、わが子の延命処置を施すか否かについて書かれています。施せば、重い障害が一生残ることになる可能性が高いのですが、その選択を「自分でした場合」と「医者に委ねた場合」との比較をするというものでした。それでは順に、3つのシナリオを参照しながら、それぞれのケースについて考えてみましょう。


<シナリオ1>

わが子の延命処置を施すか否かについて触れている部分を引用します。

~引用~
あなたには、ジュリーという、早産で生まれた女の赤ちゃんがいる。ジュリーは妊娠二七週目に、体重わずか九〇〇グラムで生まれ、脳内出血を起こして危篤状態にある。現在、著名な大学病院の新生児集中治療室(NICU)で治療を受けており、人工呼吸器で生命を維持している。
~引用おわり~

今回、医師は延命治療を中止すること、つまり人工呼吸を取り外して死なせてあげることが、ジュリーにとって最良の選択だと判断しました。
このシナリオでは、医師は患者に情報をほとんど開示しないで、自ら最終判断を下しました。

さて、皆さんは、上記シナリオを読んでどう考えたでしょうか。

医師が患者になり代わって判断を下し、患者に何の説明も与えなかった時代があったのは事実ですが、現代では考え難いですね。もし仮に私がこのジュリーの親だったとしたら・・・。考えただけでなんだか涙が溢れてきました。


<シナリオ2>

この本では、異なるシナリオも用意されています。
危篤状態にあるジュリーの、違う展開についても見てみましょう。

~引用~
医師は、それぞれの方針がもたらす結果を、次のように説明した。治療を中止すれば、ジュリーは亡くなる。治療を続けた場合、ジュリーが死亡する確率は四〇%で、生存の確率は六〇%だが、命を取り留めたとしても生涯寝たきりで、喋ることも歩くことも、意思疎通もできない。医師団はジュリーの深刻な状態を熟慮した上で、延命治療を中止して死なせてあげることが、ジュリーにとって最良の選択だと判断した。
あなたは医師に、このまま危篤状態が続けば、ジュリーは深刻な神経障害を残し、命を取り留めたとしても生涯寝たきりで、喋ることも歩くことも、意思疎通もできないだろうと宣告された。医師団は熟慮の上、延命治療を中止すること、つまり人工呼吸を取り外して死なせてあげることが、ジュリーにとって最良の選択だと判断した。
~引用おわり~

医師に診てもらうことでかえって病状が悪化することが多かった時代に、逆説的ではありますが、患者さんは今よりもずっと医師を信頼しなくてはならなかったのだそうです。
難解な医学などをよく理解できない患者さんは医師を信じる以外の選択肢がなかったわけです。
一九世紀半ばになると、ようやくインフォームド・コンセントという考え方が広まってきました。その時代になると、もう一つのストーリーが考えられます。


<シナリオ3>

それでは、最後のシナリオを見てみましょう。

~引用~
今回、医師たちは、あなたに選択を委ねる。延命治療を続けるか、人工呼吸器を取り外して治療を中止するかだ。
~中略~
今回、選択はあなたの手に委ねられた。医師はあなたに必要な情報を提示し、その上、意思決定までも任せた。あなたは多くの選択肢を取捨選択する必要はなく、ただ二つの中から選んで最終決定を下した。
~引用おわり~

現代ではインフォームド・コンセントは当たり前で、このシナリオのような決断を迫られる(インフォームド・チョイス)ことが多くなっていると思います。

さて、ここまで三つのシナリオについて考えてきましたが、シナリオを一つずつ簡単にまとめてみるとこうなります。
一つ目のシナリオは、情報も開示せず、選択権もなかった。
二つ目のシナリオは、情報の開示はあったが、選択権はなかった。
三つ目のシナリオは、情報の開示があり、選択権もあった。

単純に考えると、時代を経るにつれて少しずつ患者側にとって良くなってきていると考えられます。
しかし、実はこのシナリオには続きがありました。

一つ目のシナリオ、二つ目のシナリオ、三つ目のシナリオのそれぞれの否定的感情の強さを分析してみたところ、二つ目のシナリオが一番否定的感情の強さが弱かったことが分かりました。
また、一つ目のシナリオと三つ目のシナリオの否定的感情の強さが同じくらいということも分かりました。
このことから考えられるのは、難しい選択を迫られた時、「自ら選択することは痛みを伴う」ということです。このシナリオでいうと、医師が選択の肩代わりをすることで、ストレスを減らすことができたと考えられます。


■3.私たち、薬剤師ができることを考える

以上のことを踏まえ、私たち、薬剤師ができることを考えてみましょう。
先ほどのシナリオのように、人生を揺るがすような選択に迫られることは、私たち薬剤師の業務の中ではなかなか巡り合わないかもしれません。
しかし、服薬指導等の際に、患者さんが小さな選択をしなくてはならない状況によく遭遇するように思います。
そのときに、その患者さんの選択に対して薬剤師としてお手伝いをすることはできるのではないでしょうか。
責任が生じるので、そんなことをするのは憚れると思う方もいらっしゃるかもしれません。そうだとしても、私はそろそろ薬剤師としての職能について、真剣に考えていかなくてはいけないと考えています。

簡単な例でいえば、患者の背中をひと押ししてあげることはできますよね。
タバコをやめる。お酒を断つ。食事制限をする。ストレッチをする。リハビリ(筋トレ)をする。などの選択をするときに薬剤師としてできることがあるのではないかと思うのです。
私たち薬剤師がこれらの選択を代わりにしてあげることで、患者さんの心の負担を軽くすることを考えてみましょう。何かを選択するときには、だれでもストレスが生まれます。そのストレスを軽減するために私たち薬剤師が手を貸すのです。
先ほどの話とは異なる事例であることは承知の上です。
ただ、私が言いたいのは、「選択を肩代わりすることによって、患者さんの心に寄り添う医療ができるのではないか」ということなのです。

もちろん最終的には患者さんが意思決定をするわけですが、その意思決定の際に、薬剤師がどちらかを選べ(例えば、タバコをやめるのか、吸い続けるのか)と言うのではなく、タバコをやめるメリットとやめないデメリットをお伝えすることを通じて、タバコをやめてもらうように選択の肩代わりをするのです。タバコの例ですと、やめることを選択して頑張っていた患者さんが、あるきっかけでタバコを吸ってしまったとします。自分で選択をした人は、罪悪感に苛まれ、こんなことなら禁煙なんてやめてしまおうと思うかもしれません。
しかし、薬剤師が決めた選択を患者さんが受け入れてタバコをやめようとした人の場合は、薬剤師に言われたからやめようと思っただけだ、と思うかもしれません。
一見これは良くない兆候と思われるかもしれませんが、もう一度立ち直るチャンスが自分で決めた人より多いわけです。変な話、人のせいにできる方が心の負担が少ないということです。タバコをやめることは一筋縄ではいかないので、トライ&エラーをしながら禁煙成功となることが多いように思います。
その観点からも患者さんを一度の失敗であきらめさせてはいけません。自分で決めさせて、失敗をしたときにストレスで立ち直れないのではあまりにも不憫ではありませんか。やはり頑張りすぎるのは良くないのです。私たち薬剤師がそのストレスの肩代わりをしてあげましょう。
※実際の現場では、もちろんタバコをやめる・やめない等、自己の意思が重要でありますので、患者さんの考え方や性格等も考慮して対応して下さいね。


■4.まとめ

皆さんはどのように感じたでしょうか。
私の考えを強要するつもりはありません。医薬品を患者に渡して、服用の仕方を説明するだけの薬剤師から脱却することが、今後の実現していくべき薬剤師像なのではないかと考えています。
ただ医薬品の説明をして終わるのではなく、患者さんの描く未来の姿を一緒に考えてみることはできないでしょうか。医療・薬学の知識がある薬剤師が患者さんのニーズにあった選択を肩代わりしてあげることで、患者さんの人生をより謳歌することが可能になると思います。
機会を見つけて、皆さんも『選択の科学』をお読みになって下さい。

長文をお読み頂き、ありがとうございました。


参考文献:コロンビア大学ビジネススクール特別講義『選択の科学』文藝春秋刊  シーナ・アイエンガー 櫻井祐子/訳 
※注: 私とシーナ・アイゲンガー氏の間には何ら利害関係はございません。


この記事について/著者:小林晃洋

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