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10.薬学教育<実務実習>

10.薬学教育<実務実習>

2011年01月11日 (火) 09時00分配信 投稿日:11/01/11 09:00 icon_view 447view

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■この記事について


日本の薬学が六年制になり、今後どのような教育が行われるのか学生と現場の両者が注目していますが、教育現場は今もカリキュラムの策定に奮闘しているように感じます。

六年制にすることで、どのような教育を提供できれば二年間延ばした意味を見いだせるのか。皆さんだったらどんな教育をしたいか、もしくはできるか、ということを考えたことがありますか?

日本の薬学教育には、現場の薬剤師の介入が非常に少ないように感じます。だからこそ学生は現場が見えず将来の薬剤師像を描きづらくなり、現場の薬剤師も学生がどのような教育を受けてきているのかが分からないため、現場でどのような教育をプラスしたらよいか見えなくなっているのです。

みなさんが学生のときはいかがでしたか?学生の頃に薬剤師の役割や職能が見えていましたか?たった1ヶ月の実習では、なかなか見えなかった部分が多かったと思います。今はそれに比べて学生と関わる機会が増えたのですから、関わらない手はありません。学生達に何を知ってもらいたいのか、何を習得してもらいたいのか。学生が大学で学んでいることを聞きながら、一緒に学ぶ事もできるかもしれません。もう一度自分達がどのような教育をしたいのか、考えてみて下さい。

今回はその参考になるかは分かりませんが、カナダで行われている教育を、実務実習にフォーカスをあててお話したいと思います。オーストラリアでは残念ながら実務実習の経験がないので、比較してお話することはできませんが、教育のあり方はカナダに似ているように感じたので、カナダの例と日本とを比較してみましょう。


■5年制大学


カナダの薬学教育は、日本と違い1~2年(2年以上の場合も有)+4年の形式を取っています。最初の1年~数年間は、学部の区別なしに一般教養を学び、1年目を終える頃に学部を選択し、薬学部へ入学します。誰でも薬学部へ入学出来るわけではなく、定められた単位(科目)を取る必要があります。その単位が取れなければ、いつまでも薬学部に入学することはできません。なかでも薬学部は人気の高い学部で、学年で成績上位の優秀な生徒しか入る事ができないと言われています。


■実務実習プログラム


日本でも5年次に実習期間(薬局2.5ヶ月+病院2.5ヶ月)としてある程度の期間が設けられるようになりましたが、カナダでは低学年から患者と関わる機会を提供しています。 そもそも、薬学教育の大きな柱が『患者中心の医療(Patient centered Care)』であることから、患者といかに関わるかを重視しています。

実務実習プログラムは州や大学によって様々で、皆が同じ量と質の実習を受けて卒業している訳ではないようです。例えば、トロントのあるオンタリオ州では、企業でのインターンシップが実習に含まれている大学もあれば、大学院で習得するph.D(薬学博士)の実習内容(入学レベルに限定)に近いものを提供している大学もあるそうです。実務実習の内容は、大学の特徴を打ち出す一つの材料になっているのかもしれません。

それぞれの学年で行う内容は大学によって異なりますが、ブリティッシュコロンビア大学に通っていた学生が行った実習は、「1カ月間の薬局実習を2回・1カ月間の病院実習を1回・2カ月半の薬局実習を1回(合計5.5週間)」という内容を4年間で行ったと話してくれた事があります。私が実際に行ったアルバータ大学でも、同様の内容で行われていたのでこの内容が標準に近いものなのかもしれません。上記の数字をよく見てみると、実務実習の期間は日本の5カ月間(2.5カ月+2.5カ月)とほぼ同等ある事が分かります。ただし、日本との違いはその期間を1年間で設けているか、もしくは各学年に振り分けられているかのという点です。

アルバータ大学では、薬学部に入学した一年目から、その実習プログラムは始まります。

日本でも筆者の母校である明治薬科大学では『アーリーエクスポージャー(Early exposure)』という名の下、病院や薬局に見学に行く機会が与えられますが、直接患者と関わるものではありません。では、一般教養を終えて、薬学を学び始めたばかりのカナダの薬学一年生がどのように関わっているかというと、吸入器などの医療器具の使い方の説明がメインになります。器具の使い方の善し悪しは、薬効に大きく影響しますし、薬の知識がなくても、使い方を補足的に患者さんに教えることは、一年生でも十分可能であると考えられます。その他にも、問診票に記載されているような基本的な問診内容を、学生に直接質問させることも、患者さんとコミュニケーションをとる上で実現可能な実習内容になります。

1ヶ月間薬剤師について過ごすことで、早い時期から薬剤師の役割を自分の目で見ることが出来、まだ学んでいない薬学の知識を自在に操っている現場の薬剤師の姿をみて、憧れを抱く学生もいることでしょう。その薬剤師像こそが、今後勉強して行く上で目標となったり、励みになっているのだそうです。

筆者が薬局で勤務中にも、薬学一年生が1ヶ月間実習で来ていた事がありましたが、彼は学生の中でも特に出来る子で、1カ月の実習が終わる頃には医療器具の説明に限らず、処方薬のカウンセリングも薬剤師並みに出来るようになるまで成長していました。もちろんカウンセリングを行う薬の種類は限定されていましたが、このまま経験を積んで4年生になる頃にはどれだけ成長しているのかがとても楽しみになりました。

彼は実習終了後も、同じ系列の薬局でアルバイトを希望し、薬剤師について勤務を続けていました。このように、カナダの薬学生の9割近くが低学年の頃から薬局での勤務(アルバイト)を経験しているため、それが直接的に大学での勉強の必要性を気付かせる機会になっているのだ、という事を話してくれました。果たして日本の薬学生の何割程度が薬局で勤務しているでしょうか?
 

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薬学一年生の実習生<アンドリュー君(中国系カナダ人)> 左から2番目

2,3年生でさらに約1カ月間ずつ薬局及び病院での習を行い、最終学年である4年生では10週間の実習を行います。筆者が実際に経験させて頂いたのがこの実習プログラムで、日本の2.5カ月と同様の期間で高血圧・高脂血症・糖尿病等の慢性疾患の患者を実際に受け持ってモニタリングするのがこの実習のメインとなっています。

主な到達目標は、「患者と協力関係を築き、患者中心の薬物治療に関与させること」であり、患者との直接的な関わりや、指導薬剤師及び他の医療従事者達との協力関係の構築を通して、学生は臨床的かつ倫理的な判断を下す事が出来るようになり、また患者中心の医療を実施するために患者の状況を理解していくことが求められます。

内容は以下の通りで、4年間を通じて最も患者と関わる機会が多い実習になります。どれだけ多いかというと、実習マニュアルに‘新患’‘再来患者’‘OTC医薬品’の3種類のカウンセリングを少なくとも1日1回以上行うよう指示があります。日本の薬学生はこれほど多くの患者カウンセリングに関われているでしょうか。


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実習のメインは担当患者のモニタリングで、実際に行った受け持ち患者のモニタリングでは、日本の病院薬剤師により病棟活動の一環として行われている、「薬剤管理指導業務(Medication Management Review)」に近い作業を薬局で行います。病院で行われている「薬剤管理指導業務」とは、医師のカルテや検査値、患者インタビュー等から得られる情報をもとに薬物治療を再検討し、医師や他の医療従事者に提案したり、実際に今後の薬物治療に活かしていくための一連の業務を指します。

「第8回目 医療システム」の記事でご紹介させて頂いたように、アルバータ州では患者の医療情報を医療者同士で共有することの出来るシステム(アルバータネットケア)があるため、診断内容や検査値等の把握により、客観的な患者評価(Patient Assessment)を可能にしています。

これらの情報をもとに患者と面談を行い、問題点を導き出すことで今後のフォローアップにつなげています。フォローアップの内容は、薬物治療に限らず、糖尿病治療には欠かせない食事や運動療法、自己血糖測定の指導や、糖尿病の基本知識の啓蒙など多岐に渡ります。カナダでは、自己血糖測定器の指導は院内の医師や看護師でなく、薬局の薬剤師が担当しています。慢性疾患であるからこそ、患者の日常生活に関わることのできる薬局薬剤師の役割がいかに重要であるかを、現場の薬剤師の働きから学ぶ事が出来ました。

カナダには調剤薬局は存在せず、ほとんど全て調剤併設のドラッグストアの形態をとっています。ということは、OTC医薬品の相談販売は薬剤師にとって必須の業務になります。処方せん調剤中もOTC医薬品の相談は頻繁に入るほど、プライマリケアにおける薬剤師の役割は大きいと感じました。カナダでは、1年生のうちからOTC医薬品の授業があり、同時にカウンセリングの授業でロールプレイを重ねていくことで、実習が始まってすぐにその実力を発揮する事が出来るのです。今後第一類医薬品が増えてくる事が予想される中で、OTC医薬品の授業やカウンセリングは重要な位置づけになると考えられます。

健康衛生増進の一環として、州営の組織(アルバータヘルスサービス)が提供している糖尿病セミナー(“Diabetes Program - Edmonton Zone”)に参加する機会がありました。このセミナーは、糖尿病と診断された患者を対象に、州政府が無料で提供している勉強会です。糖尿病のような慢性疾患の治療においては、患者自身が疾患を理解した上で納得のいく治療を受け、自ら生活習慣の改善をはかることが重要な鍵となります。糖尿病の罹患率も高く、医師不足という問題をかかえるカナダでは、あらゆる政策を導入して慢性疾患に対する対策を講じているようです。その一つに州立の糖尿病セミナーがあります。

講師は公認糖尿病療養指導士が担当し、糖尿病に関する基本知識から患者自らが家庭で行える食事・運動療法まで、幅広い知識を学ぶことが出来ます。

薬局では、なかなか食事・運動療法の指導まで手が回らないと思いますが、表に示す程度の知識を患者自身が持っている中で、薬剤師だから分かりませんという言い訳は通用しません。薬剤師が知らなくても、誰に聞けば適切な答えを提示出来るのか、社会との協力体制を構築するのも医療を担うスタッフとして必要な事ではないでしょうか。

今回このセミナーに参加する事で、患者が自分の疾患に関しどの程度関心があり、どの程度の知識を持っているのかを知ることができ、非常に有意義だと感じました。というのも、これらの事が分からなければ患者のニーズを探る事は出来ないからです。患者を取り巻く社会の状況が分かれば、自然と薬剤師の役割も見えてきますし、社会とどのように協力していけばよいかなどを考えるきっかけにもなりました。
 

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■最後に


六年制の学生が5年生になり、2.5カ月+2.5カ月の実務実習が始まりましたが、学生や現場においても大きな混乱はなく学生にとっては「現場がどのようなものか」ということを学ぶ機会になっているように感じます。実習先によって質に差がでていることは現段階では仕方のない事ではありますが、今後ある程度標準化していかなければならない事柄であるように感じます。また、現場を体感できる機会が5年生になるまで得られないという事に関し、非常にもったいないと感じているのは筆者だけでしょうか。現場に出た事で絶対的な知識のなさを痛感し、実習期間中に学んだ知識を復習する学生達も多くいますが、これが1年生のうちから行われていれば、知識のインプットとアウトプットを段階的に行えていたように感じます。現在70以上ある薬科大学の実習受け入れ体勢が不十分でない事を考えると、低学年からの実習の導入は難しいと感じますが、どのような方法が最も効果的であるかを今後みなさんで検討して頂きたいと思っております。

海外と日本とで、同じ年月をかけて学生を教育しているにも関わらず、卒業後の薬剤師の能力に差があるのは教育段階の違いの他に考えられません。今その教育が問われている時期です。みなさんで意見を出し合い、本当に求められている教育とは何かを追求していく時期なのではないでしょうか。


著者:五味さやか

 

「三カ国での薬学比較」の連載記事
・1.薬剤師を取り巻くスタッフの役割と位置づけ
・2.調剤関連
・3.監査方法
・4.投薬とカウンセリング
・5.薬学と記録
・6.医療制度 vol.1
・7.医療制度 vol.2
・8.医療システム
・9.高齢者医療

*連載記事の一覧はこちら

 

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