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7.医療制度 vol.2

7.医療制度 vol.2

2010年06月24日 (木) 09時00分配信 投稿日:10/06/24 09:00 icon_view 345view

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医療制度 vol.1では、オーストラリアとカナダの医療制度の概要をご紹介しましたが、第二弾では問題点とそこから生まれた薬剤師の職能に関してお伝えしたいと思います。
 
 

●カナダの国民皆保険が出来るまで


まずは、国民皆保険がどのように出来たのか、カナダを例に見てみましょう。カナダの国民皆保険制度成立の過程は、非常に興味深いものがあります。

1914年、カナダの中西部(アルバータ州の隣)に位置するサスカチュワン州のサニアという小さな町で、市民に対し無償で医療サービスを提供する法律が制 定されたのが始まりです。当時は、政府の干渉を懸念する医師による、ストライキを呼び起こすこともありましたが、サスカチュワン州の取り組みを皮切りに徐 々に他の州にも広がり、現在では当時のサスカチュワン州知事であるトミー・ダグラスが「カナダの医療の父」として、国民から高い評価を得ています。 1984年にカナダ保健法(Canada Health Act : CHA)が制定され、カナダ全土で国民皆保険制度(メディケア)が統一されました。

日本で国民皆保険制度が最終的に制定されたのが1961年(昭和36年)であることから、日本のほうが少し早くに国民皆保険を導入した国である事が分かり ます。 それでは日本の国民皆保険ができた経緯はどのようなものでしょうか?自分で調べてみる動機づけになったでしょうか?

 

●待機時間の短縮が今後の課題


国民の誰もが無料で医療にアクセスできるという利点とは裏腹に、手術の待機時間や受診までの時間が長期化するなど、大きな問題も抱えています。日本では、 多くの場合その日のうちに検査を終わらせることができますが、カナダでは検査を受けるまでに1ヵ月や2ヵ月程度待たされる事もあり、同じ場所ですべての検 査を行えない場合もあるようです。


私も実際にカナダのクリニックを受診する機会があったのですが、血液検査をクリニックとは別の数キロ離れた施設で行った経験があります。始めにかかる家庭医 のいるクリニックには、全ての検査を行える設備が整っていないためです。みなさんの近所にある"●●医院"を想像して頂ければお分かりかと思いますが、レ ントゲンや血液検査を行う設備はありません。予約を入れるまでに数日待ち、検査をするのに数日かかっていては、一体いつになったら治療を始められるのかと いった状況です。

参考となる待ち時間の例として、癌の手術待機時間のデータをご紹介します。
あるカナダの病院の平均待機時間は54日間(2ヵ月弱)。また、家庭医に紹介を受けてから、専門医や病院での治療を開始するまでの時間は、18週(4か月強)程度で、現在もこの期間は延びているそうです。

緊急性の高い患者を優先的に治療しているようですが、長い待ち時間を強いられた患者が治療を受ける前に命を落とすというケースも事実起こっており、この問 題は深刻です。 これは、アメリカの国民が、民間医療保険主導から国民皆保険制度に移行する事に反対している一つの理由として考えられます。

待機時間の長期化は、カナダ・オーストラリア・イギリス等で共通する問題であり、今後少子化や高齢化が進む中で、さらに悪化することが考えられます。


◆慢性的な医師不足


これらの原因として、長期的な医師不足が挙げられます。カナダ国民の中には家庭医を持たない患者が300万人近くいると言われており、家庭医だけでも 3000人近くが必要と考えられていますが、ここ最近医師の数は増えておりません。カナダの国民でも、家庭医を持たない患者の場合は、観光客がかかるよう なウォークインクリニックを利用せざるを得ない状態です。

さらに、移民大国のカナダやオーストラリアでありながらも、海外で医師免許を持つ移民がカナダ移住した国で資格を再取得しづらいという制度上の問題もあります。

ただし、現在日本同様に少子化傾向にあるカナダでは、今後移民の人口増加に頼る傾向にあり、移民の有資格者を優先的に受け入れ、資格の取得を容易にする方向で話が進んでいるところだそうです。


◆病院の運営

カナダの病院の多くが公的病院の形態をとっていますが、経営は民間の非営利組織が、地方自治体やボランティアと協力して行っているようです。カナダでは基本自由診療を禁止しています。

カナダのケベック州では、手術待機時間の長期化により、治療を受ける前に亡くなった患者の遺族が訴訟を起こした事件をきっかけに、一部の自由診療が認めら れるようになりましたが、他州では未だに認められておりません。そのために、金銭的に裕福な家庭ではアメリカや他国へ渡って治療を受けるということも実際 行われています。一方(逆に)、医薬品価格が自由価格制であるアメリカでは、薬価が高く無保険者であるために薬を購入できない患者が、カナダへ渡って薬を 原価で購入するという事態も起こっています。

 

●プライマリケア薬剤師としての活躍


医師へのアクセスが制限されている中で、プライマリケア(一次医療)において大きな役割を果たしているのが薬剤師達です。医師不足によりすぐに医師にかかれない患者があふれているカナダやオーストラリアでは、患者にとって最初の相談相手は薬剤師である事が多いのです。薬物治療の評価も重要な役割ですが、薬局(コミュニティファーマシー)の薬剤師が一次医療の一環で患者の症状を確認し、適切な薬を選択したり受診勧奨を行う役割も同様に重要であり、患者から厚い信頼を得られているのもこの役割のためであるかもしれません。

カナダの美容師と話していた時に、こんなことを言っていたのを今でも覚えています。「医師より薬剤師のほうが頼りになる。」と。彼女の話では、医師に質問した際に「それは薬剤師に聞いてみなさい。」と言われたのだそうです。隣にいた美容師もその言葉に同調し、「薬剤師のほうが聞きやすいし、広い知識もってるしね。」と言っていたのです。

これは一個人の話に過ぎないかもしれませんが、これほどの大きな印象を与えた薬剤師がカナダにはいるという事です。また、薬剤師の意見を頼りにする医師がいるという事でもあるのです。

日本の薬局で「医師に話してあるからあなた(薬剤師)に話す事はない。」とばかりに、全く逆の事を言われてきた自分にとっては、衝撃的な話であった事を覚 えています。カナダの薬剤師を羨ましく思ってしまった自分が悔しかったです。同じ薬剤師なのにどうしてこうも違うものなのか。


こ れらの一次医療を担う役割を重要と捉えているカナダやオーストラリアでは、必修科目としてOTC医薬品のカウンセリング授業が大学で実施されています。ま た、多くが単剤処方で販売されているカナダやオーストラリアのOTC医薬品は、疾患に合わせた医薬品の選択が、多剤混合処方である日本のOTC医薬品より も容易である事が特徴です。

日本でもスイッチOTCが増え、処方せん医薬品以外の医薬品(いわゆる非処方せん薬)の販売により、今まで処方せんでなければ調剤出来なかった薬が、薬局 で手にはいるようになりました。この動きはますます加速することが見込まれ、利便性の点で薬局で相談をして薬を購入する患者が増える可能性があります。そ うなった場合は、安全性の部分でリスク回避のできる能力が必要になります。

カナダやオーストラリアの薬剤師のように、すぐに一次医療の役割を担うことはできませんが、環境は確実に近づているように感じます。第一類医薬品の販売や その他の薬事法の改正事項により、日々の業務が増え、より複雑になってきたと感じている薬剤師は多いのではないでしょうか。この流れをどう生かせるかは個 人次第。この風向きを上手く利用するのか、それとも業務をこなすことに徹するのでしょうか。

 

●最後に


国によって医療制度やその問題点も様々であり、医療者の役割や立場等も国ごとで多少異なると思います。それぞれの国の薬剤師が全く同じではなく、それぞれの特徴を出していることはむしろ良い事であると思います。

今回ご紹介したカナダとオーストラリアの薬剤師の役割はあくまでひとつの例であり、その国の制度があるからこそ生まれたものなのかもしれません。しかし、必ずしも制度が先にくるものでしょうか?
誰かの動きや働きかけが人を動かし、制度を新たに作ったり変えたりすることもあるのではないでしょうか。制度を変えることは簡単なことではありません。で も、役割や環境をかえることはひとりでもできます。他の国の薬剤師の役割や働きで純粋に良いと思えるものがあるならば、とっかかりとしてそれらを取り入れ て真似ることも一つの手だと思います。

制度や役割が違っても世界共通で言えること、それは「患者のニーズに応える」ということ。日本の患者が今何を薬剤師に求めているのか、制度の視点からみてみるのも、見方が変わって案外面白いかもしれません。

あなたが海外の薬剤師に日本の制度や薬剤師の役割を話すとしたら、どんな特徴を話しますか?


著者:五味さやか

 

「三カ国での薬学比較」の連載記事
・1.薬剤師を取り巻くスタッフの役割と位置づけ
・2.調剤関連
・3.監査方法
・4.投薬とカウンセリング
・5.薬学と記録
・6.医療制度 vol.1
・8.医療システム
・9.高齢者医療
・10.薬学教育<実務実習>

*連載記事の一覧はこちら

 

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